サビアン占星術の日本における創始者:直居アキラが
映像作家:桜林宏であることは、前回のブログで簡単に紹介した。
その証明となる未発表の作品を発見!
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以下は冒頭の第1章です。
「約束の地 宇宙のキリスト」
第一部 死者、夏子を追って
第1章
それは突然の始まりであった。京子にとって親友の夏子の死は、それまで予想もしない内面の変化をもたらした。しかしそれを説明するためには、京子の不思議な環境と生き方について語らなければならない。
京子は、自分では陽炎のように生きているとイメージしていた。しかしそれは、外側の人たちへのカムフラージュであることは じゅうぶんに知っていた。外から見れば、京子は恵まれたブルジョアの娘で、結婚相手が出てくるのを待っているとしか映らなかっただろう。だが京子の世界は、まったく違うものであった。京子が口を開いて気軽に話せば、すぐに人は京子を精神世界の若い女性とわかるかもしれない。
もしそうだとしても、人は京子に起きていることを理解することはできないであろう。京子の生活は、女神Aと女神Bとのチャ ネリングで営まれており、その周囲にいる何人かの人々との緊張関係によって営まれていた。そうしたチャネリングが始まってから、女神Bは京子に秘密の厳守と平凡さの破棄を求めてきたので、京子は自然にそれに従って生きてきたのだ。
そのためには、京子の環境はきわめて有利なものであった。父は地方の実業家で、あたかも京子を恐れているかのように東京の支店の会計監査の補助の仕事をさせながら、学生のときのように仕送りさえしてくれたので、生活の苦労というものは何もなかった。京子の母は、子供のときに京子に東京の教育を受けさせるという名目で家を出てから久しい年月が経ったが、それにより父は、京子にとっての不在の証のような存在となった。その母も男を作り、さらなる家出をして、京子は一人になった。
そうしたドラマも、今ふり返ると嘘のように見えた。いや、女神Bが京子に起きたことを嘘として認識させたから、といったほうが正しいのだろう。京子は女神Bの力で、起きていることも、この世の通俗のこともすべて嘘と教育されたようなものだったのだ。たしかに外の世界のことは、京子にはまるで遠足の水族館の光景に過ぎなかったといえる。
その光景を、京子はできるだけ見ないようにしていたし、女神たちとの交流が始まってから知ることになった、何人かの人物を精神的な盾として、みごとなまでに自分を隔絶し終えていたのだ。ただひとり夏子だけは、京子と普通の世界の折衝点の大使のような役割をはたしていた。
夏子と京子は私立の一貫教育の学校で、中学から一緒であった。女神たちがコンタクトするまで、京子と夏子はそうした学校の女の子によくあるように、親のペットの肥大化同然の生き方を想い描いていた。だが、京子の変化が始まるにつれて夏子にも変化が訪れ、夏子は京子の通訳のような存在となっていった。あたかもそれは外国に潜伏する先輩のスパイが、後輩に教えるというようなものになっていった。夏子は京子の不思議な状況を理解しつつ、通俗の世界観と切れのある思考分析を提供していたといってもよいかもしれない。
たぶん夏子は、人の置がれる運命のポジションは決められているから、それから外れるべきではないと考えていたようだ。具体的にはそれは、彼女たちが置かれているセレプ的な立場の保持ということにあり、夏子自身はそうした平凡な人生コースを心から望んでいたいため、夏子の存在自体が京子には現実的、ステイタス的な存在証明となっていた。夏子という鏡で京子が自分を見ると、単なるお金持ちの娘ということになるのだった。もしそれだけであったら、夏子とのつき合いは学校を卒業した時点で終わっていたのかもしれない。
夏子の母は有名な作家や僧侶の多い家系で、母自身がかなりの瞑想修行の弟子を持つという、特異なところがあった。夏子にもその血は受け継がれていて、夏子には母同様に、この国の求道思想の世界の中心に位置している自負のようものがうかがえた。結果として夏子は通訳であると同時に、鋭利な批評家として機能することとなったのだ。
いや、夏子は、京子が精神世界に深入りすることを自己の代償行為としてみなしていたのかもしれない。夏子自身は、ステイタス的権利とさらにそれを保証してくれる男だけを求めていたからだ。もっとも夏子が求める男はそうしたタイプだけではなく、あたかも女王が奴隷を指名するかのように、クラブで知りあった男たちと寝るという側面があった。そうした餌がないと非常に不機嫌になり、ある意味では時代錯誤の傲慢さをもっていたのだが、それが磁力のような魅力にもなっていた。
二人を取り巻くほかの友達との関係も、絆を深めてくれるものであった。なにより京子の、表面的にはボーイフレンドということになる光男を、夏子が尊敬し褒めちぎっていたことが、とりあえず二人の関係を安定させるものとなっていたのかもしれない。だが京子にとっては、光男こそが自分の人生に呪いをもたらし、通常の男女関係のものではないその苦しみを、夏子は非常に喜んでいたのだ。その様相は、歓喜に近いものがあった。
「そうなのよ、そうなのよ、すべては魔との戦いなのよ」と、目を輝かせていう夏子のことを、京子は鮮やかに思い出す。
だが通俗的表現をすれば、「魔」によって倒されたのは京子ではなく、夏子のほうだった。それはもし若くして死ぬことが、魔への敗北とするならばの話だと光男はいったが、京子には自分の身代わりになったという思いが去らない。
いや、本当は自分が夏子に持ち込んだ魔の気が、夏子を死に至らしめたのではないか? もちろん京子は、こんな想いは自分の自己愛の妄想であることはよく知っていた。どうせ光男に話したところで、「すべての思考はポイズンだ」というにきまっている。こういうときは光男の背後にいる四方田(よもた)に聞くしかないのだが、女神Bがチャネリングで先回りしてきた。
「戦いなさい京子、夏子を追うのです」
死んだ夏子を追う! この提案に、京子は眼がくらみそうになった。そんなことはまったく考えていなかったということもあるが、京子には自分が長く持っていた信念――この世から自分の姿を消す絶好のチャンスが、そこに潜んでいるように思えたのだ。
「消えるしかないのだわ」思わず声に出して、京子はそういった。
(第1章おわり:全16万字の長編小説の冒頭部分です)
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